PANSYレーダーが取り組む研究テーマ
極域独自のエネルギー流入の大気への影響を探る
電離圏と呼ばれる地球⼤気の最上部は、宇宙空間と接しています。特に極域では、宇宙空間からやってくる電⼦やイオンが⼤気に衝突して、オーロラが起きるなど、激しい変動が起こっています。PANSYレーダーは、速度などの測定が可能なインコヒーレント(⾮⼲渉性)散乱観測と、密度の擾乱の測定が可能なコヒーレント散乱観測の2つの⽅法でこの電離圏の変動を測定できるユニークな能⼒を持っているので、宇宙空間が地球⼤気圏へ与えている影響を詳しく捉えることができます。
極中間圏雲の実態を調べる
中間圏界面と呼ばれる高さ90km付近では、夏に非常に低温となり、水蒸気が凝結して極中間圏雲ができます。極中間圏雲は夜光雲とも呼ばれています。極中間圏雲の記述は産業革命以前にはないため、人間活動が原因で現れるようになったと考えられています。極中間圏雲の生成量は温度に敏感に反応しますので、気候変動のカナリアとも言われています。レーダー観測を行うと極中間圏雲に関連すると思われる特殊なエコー (Polar Mesospheric Summer Echo) が受信されます。PANSYレーダーは、PMSEをモニターできるだけでなく、周辺の流れ場も測定できるため、極中間圏雲の物理に迫ることができます。
極成層圏雲の実態を調べる
極域の冬の成層圏は、太陽の光があたらず、-80度以下にまで温度が下がります。すると、わずかな水蒸気なども凍って高さ20km付近に極成層圏雲ができます。ピンクやオレンジ色に輝く美しい雲ですが、オゾン層破壊を加速する恐ろしい作用があります。大型大気レーダーによる流れとライダーによる雲の同時観測を行うことで、その実態を調べることができます。
カタバ風が作る大気循環や雲の物理、水蒸気の輸送過程を調べる
南極では、大気の大循環により低緯度側から流れ込む気流が冷やされ、南極大陸の斜面を流れ落ちるカタバ風と呼ばれる現象があります。PANSYレーダーは、カタバ風がもたらす大気循環による上空の水蒸気の流れを、時々刻々捉えます。これまでの測器では観測の難しかった雲の生成や消滅過程、エアロゾルの輸送過程を詳細に調べることもできます。
成層圏の温度を正しく見積もる
成層圏物質循環に乗って運ばれたオゾンの極域での蓄積量は春に最大となります。ところが、南極では極渦の内側に発生する極成層圏雲によりオゾン破壊反応が加速され、オゾンホールが出現します。オゾンホールの将来予測には、極成層圏雲の増減を見積もる必要があります。そのためには、大気重力波の作用を正しく見積もり、成層圏温度を正確に予測することが不可欠です。