大型大気レーダーの観測機能

大気中には温度/電子密度の揺らぎが存在しています。レーダーから発射される電波はこの温度や電子密度の揺らぎにより散乱されて戻ってきます。この散乱エコーは大変弱いので、大出力の送信機能と微弱な電波の受信機能を併せ持つ高度なレーダー技術が必要となります。

対流圏・成層圏・中間圏の風の3成分を捉える

散乱エコーの周波数のドップラーシフトを調べることで、約0.1m/sの高精度で鉛直成分を含む風の3成分を捉えます。大型大気レーダーは鉛直風を高精度で測定できる唯一の測器です。また、鉛直分解能は150m、時間分解能は1分と、既存の観測器とくらべて桁違いに優れています。これにより、地球気候に大きな効果をもつ、小さなスケールの大気波動の研究ができます。

波動の作用をとらえる

現在の気候モデルでは大気波動の作用が未知数であり、特に極域の予測は困難です。しかし、極域の振る舞いは、地球全体に関わってきます。大型大気レーダー観測によって波動作用を定量的にとらえることにより、気候モデルの予測精度向上を図ります。

電離圏擾乱の観測も可能

電離圏の電子密度や電子温度、イオン温度、イオン速度を推定できます。また、E層と呼ばれる電離層の下層部分の3次元構造を、専用のアンテナ群を使って詳細に調べることができます。

さまざまな発展応用が可能

観測データをもとに、大気波動(重力波・潮汐波・ロスビー波)や乱流構造の解明、オゾンなど大気微量成分の輸送過程、雲の生成・消滅過程、大気のエネルギーバランスなど、さまざまな研究をおこなうことができます。

厳しい環境に耐え、しかも南極にやさしいレーダー設計

「日本から昭和基地への連絡は年に一便。建設できる期間は短い夏の1ケ月間」、「約50m/s程度の最大瞬間風速が年に数回」という厳しい問題を解決しました。また、効率の高いE級増幅器の開発により消費電力の大幅削減に成功し、同等の能力の京都大学MUレーダーの1/3以下の電力となる70 kWほどで観測が可能です。

PANSYは南極環境に配慮したレーダーです。地面に掘った細い穴にパイプを差し込んで簡単な基礎とし、その上に軽量アルミ合金性アンテナを立てています。またその直下には特別に開発した低消費電力の送受信器を設置しています。


整地されていない高低差のある大地に設置されていますが、アクティブフェイズドアレイレーダーの特長を生かし、個々のアンテナから発射する電波の位相を個別に制御してビームの方向を自在に変化させることで、現象の3次元構造を捉えることができます。